2005年夏、輪島市三井町の一部地域では赤い茗荷(みょうが)が大量に発見された。
茗荷は食用として「親」と「子」があるが、親とは茎があって葉があってのそれで、子はあの子供が手を握ったような形の一般的に言う茗荷のことである。
普通茗荷は白から薄い藤色にグラデーションになった色だが、この年藪に出た茗荷は血の滴るような真っ赤なものがあり、その群生だけでは無く、隣や離れた群生まですべて真っ赤だった。
この事態に地元住人は大いに慌てたが、こうした赤い茗荷の発生は「茗荷の花」と呼ばれる現象と言い伝えられ、茗荷藪では30年から50年に1度こうした現象が発生することが古来からの文献にも記されている。
しかし「赤い茗荷」の正体は寄生虫、若しくは菌種感染の可能性が高く、赤くなった茗荷を詳しく調べると、中に細い糸状の真っ赤な寄生生物が存在しているケースが多い。
一定の気温や湿度などの条件が揃うと繁殖して茗荷藪全体に広がるものと見られているが、熱処理を行えば食べる事も可能である。
ただ、地域によっては不吉とされている場合もあり、天変地異の兆しとも伝えられている場合もあるが、珍しい現象であっても、絶対あり得ないものではなく、天変地異との因果関係は基本的にグレーである。
同じように京都では2007年笹の群生が白い花をつけて枯れてしまったが、こちらも何か悪いことが・・・と心配された。
しかし、これも笹や竹の普通の生態で、通常60年ほどに1度白い花をつけると、竹や笹のその群生はすべて枯れてしまうことが知られている。
日本人の平均寿命がこれほど長くなったのは太平洋戦争後のことであり、それより以前は平均寿命は50歳前後だった。
こうしたことから「赤い茗荷」や竹、笹の花を見るのは恐らく一生の間に1度あるか無いかの特別な現象だったに違いない。
それを見て天変地異の兆しと考えても不思議はないが、現実には異常気象や水害、地震は頻繁に起こる災害であって、常に順調な年など逆に少ないのであり、これを植物がもつ長い周期の生態とつなげたことから、こうした不吉な伝承が始まったのだと考えられるが、その根拠は微妙なものがある。
最後に、サツマイモの花を見た人がいるだろうか?
サツマイモはめったに花をつけないが、暑い日が続くと稀に花をつけ、その花はかわいい白い花である。
こちらもめったに無いことなので天変地異の兆しと言う伝承があるが、赤い茗荷と同じように植物にはたまにあり得る普通の生態だ。
偶然という天の采配に、本来結ぶ先の無い糸を形無きものに結んでしまう、或いはそれが初めから結ばれたものだったのか、そのどちらなのかを人間は知る事が出来ない。
この現象が発生して2年後の2007年、能登半島は震度6強の地震に被災しているが、これを全く無関係とする事も、因果関係が有ると考える事も、双方に危険が伴う。