「十字架が燃えている」・1

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                              1991 7 30 撮影

不確定性原理は自然界に起こる事象は全て、不透明であることを証明した。
刻々と過ぎ去る時間軸の中で次々原因が積み重なり、或いは原因そのものが消失して、「先のことは分からない」としたが、このことはアインシュタインの相対性理論でも同じことが語られた。
すなわち時間は未来に旅することはできても、過去へは戻れないとしたのだが、その自然界に措いて、なぜか原因より先に結果が現れることがしばしば存在する。
今夜は久しぶりに、少し不思議な話をしようか・・・。

1950年10月、カナダのプリンスルーパートと言う町で、母親と一緒に買い物に来ていた少女、ジュリー・アーレン(13歳)は、そのマーケットで突然意識を失って倒れてしまった。
これに驚いた母親や周囲の買い物客たちは、慌てて彼女を近くの病院へ担ぎ込んだが、医師が診断した結果、これは一種の「てんかん」で、その発作だろうと言うことになり、ひとまず強心剤を注射し彼女の意識が回復するのを待った。

だがしかしジュリーはそれから2日経ってもまだを目を醒まさない、母親の話では確かにジュリーは神経質な女の子だが、こうしたことは初めてで、一体何が原因なのか分からない・・・、そう医師に語り、医師も身体機能は全て正常なのに、なぜジュリーが目を醒まさないのか分からなかった。
そしてジュリーが意識を失ってもう既に3日目に差し掛かった夜、時刻は10時45分頃のことだったが、見回りに来た看護婦のルシンダが、何気なくジュリーの所に目をやると、何と彼女は目を開けているではないか、しかもどうしたことだろう、ジュリーの目は青い色の光を帯びていて、目の焦点は遥か遠くに結ばれているようだった。

ルシンダは慌てて宿直の医師を呼びに走り、今度は他の看護婦も集まり、みんなでジュリーの様子を見守っていたが、どれくらいそうしていただろうか、「おそらく10分くらいだと思う」とルシンダは証言しているが、何度ジュリーの名前を呼んでも、彼女は目を開けたまま答えようとしなかったし、そもそもこうして皆が集まっていることすら分かっていない様子だったが、暫くして突然ジュリーの唇が微かに動き始めたかと思うと、訳の分からないことを誰に話すとも無く語り始めた。

そのときジュリーが話したことは、医師が書きとめているが、その内容はこうだ・・・。
「大きな建物が見える、左端の2階の窓が3分の1ばかり開いていて、寝台がある」
「ブランデーと水とコップがある、破れた新聞のそばにはりんごとナイフが・・・、白い長い服を着た人、女の人だ・・・、寝台にいる、白い服をつかんでいる男の手が2本・・・、あっ、二人とも死んでる」

ここまで語ったジュリーの目は、さっきまでの青い光が消え、そして彼女の瞳はここで初めて、上から覗き込む医師の顔に焦点が合った様子だった。
「私はどうして・・・」
ジュリーはこうして3日ぶりに目を醒ましたが、さっきまで喋っていたことは何も記憶していないようで、その後彼女はお腹がすいたと言って、トーストやポテトサラダを平らげ、翌日にはすっかり元気になって退院したが、その直後、医師のところに警察と、同じ町にあるエグリントン・ホテルから相次いで電話がかかってきた。

「どうやら自殺者のようです」
「検死をお願いします」
警察もホテルも同じ用件だったのだが、どうもエグリントン・ホテルで男女の自殺者が出たらしかった。
とっさにピンと来た医師は、昨夜、ジュリーの話を書き留めたノートのことを思い出したが、ホテルに急行してみると、その2人の男女は既に絶命していて、死体の硬直状況から見ると、昨夜の10時から11時ごろがその死亡推定時刻かと思われた。

また寝台のサイドテーブルにはブランデーと水が、そしてコップも2個置かれていて、それにりんごとこれをむく為のナイフ、破れた新聞までもが床に落ちていた。
昨夜ジュリーが話したことで、出てこなかったものは床に転がっている睡眠薬の空瓶だけ、後は全くジュリーが話したとおりの自殺現場がそこに存在したのだった。

「十字架が燃えている・2」に続く