「潜在的危機感」

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                              1994 3 31 撮影

良い物と言うのは売れる。
だからそれは多く作って世の中に出せば、人も喜び、自分も利益を得ることが出来るが、この良い物と言う基準は常に変化していくものであり、例えばそれまでは必要だったが、既に手に入れてしまった場合、複数が必要でなければ、それは要らない物、つまり始めの段階よりは良いものとしての度合いが減少して行くのであり、こうした場合に1つでも良かった物を、2つ必要な環境を作って行こうとする、またそうした市場を作って、そこで物を売って行こうと考えたのがケインズ理論だが、この理論は基本的に利益の先食い、つまり2年後に売れるはずの物を今売ってしまう形となる。

またもともと無かった市場を作って行こうとするこの考え方は、経済の進捗とともにあらゆる面から複数化し、一つの決まった土地の上に何百階もの市場が形成された形となり、そこから発生してきたものがあらゆる必要性の薄い物の氾濫であり、物余り現象、つまりデフレーションを加速させる。
そしていまや国際社会は、連鎖的に先の利益を今使わないと、現在が維持できない、そうした状況になっている。
我々は未来をどんどん食いつぶしながら、今を生きているのである。

アメリカの格付け会社「ムーディーズ・インベスター・サービス」の日本国債担当者トーマス・バーン氏は2月25日、東京で記者会見し、その席で民主党鳩山政権の財政面での政策運営に付いて次ように述べた。
「日本の財政赤字がこの先も続き、そしてその水準が高いままで推移した場合、日本国債の格付けにはマイナス要因となるだろう」
このように指摘して、鳩山政権に対し経済対策の必要性を改めて求めたが、同時にバーン氏は日本国債の信認維持については、説得力ある財政再建策を示す必要性があるとした。

これはどう言う意味かと言うと、消費税の引き上げなど、何らかの増税はもはや避けられないが、しかし増税だけでは国内の消費が冷え込み、さらに経済成長を阻害する恐れがある事から、子供手当てなどの一般家庭支援の上に、企業向けにも収益向上がはかられるような総合的政策パッケージが必要だと言うことであり、これがバーン氏の言わんとするところである。

ちなみにアメリカのもう一つの格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ」は、日本国債の格付けを、2010年1月26日の段階で「安定的」から「ネガティブ」(若干弱い)に引き下げているが、これは日本政府の大幅な赤字国債増発を受けたものであることは間違いなく、そうした意味では「ムーディーズ・インベスター・サービス」の格付けで、現在も「Aa2」と言う、先進国の中ではイタリアと並んで、上から3番目の低い評価しか受けていない日本の国債は、更にその評価を下げる可能性も出てきたのである。

一般に国債と言うと、私は買っていないから関係ない、そのように思うかもしれないが、国債は勿論政府系金融機関や、銀行もこれを引き受けるが、同時に市場へも出されていく。
そしてこうした国債はその国家が安定していれば、その安定度で比較的安い金利でもみんなが買うことになるが、もしかして危ないとなれば皆が買わなくなり、その結果危険と言うものをカバーするために、金利を多くつけて売ることになっていくのである。

つまりお金を借りるために信用の無い分、より高い利子でしかお金を借りれなくなる仕組みは一般と同じ原理であり、この場合信用がなくなると、誰もお金を貸してくれなくなる、すなわちどこの国も日本国債を買わなくなり、その結果日本は必要な資金を集められず、経済が停止してしまう。
簡単に言えば破綻してしまうのだが、毎年毎年借金の上に更に借金を重ねていると、日本国債はそのうち信用を失い、借金を払うために金を借りようとしても、そこには更には大きな金利がかかると言う、まるで「火の車」状態になるのであり、既に日本はそうなってきている・・・、とアメリカの格付け会社は言っているのだ。

そしてこうした場面で、大幅な人員削減をやって、しかも増税でもしようものなら、そこには先輩がいるから良く見ておくといいが、ポルトガル、ギリシャなどはまさにこうした状態に陥って、国内は混乱の極みになり、そうした影響はEU全体にまで及んできている。

ちなみに2009年度の各国のGDP(国内総生産)に対する赤字比率を見てみようか、ギリシャなどは当初7・7%だと言っていてそれが実は借金比率が12%を超えていたことが判明、一挙に信用を失って破綻になってきたが、EUではそもそもこうした赤字比率は、3%に抑えることが条件となっていたにも拘らず、これがかろうじて何とかなりそうな国はドイツの3・6%だけで、他はフランスでも8%、イギリスに至っては12%、またEU以外ではアメリカは10%、日本も8・7%と、世界各国が軒並み赤字予算なのである。

こうした中でも特に日本は、この数字だけ見ればなんだ大したことは無いではないか、と思ったら大きな間違いで、日本の累積赤字は2009年度末で871兆円、つまり国家予算の10年分が既に借金された上、また借金して作った国家予算の半分は借金の金利と借金返済に回されるが、その元本は減るどころか、毎年増える一方であり、例えば1993年、ビル・クリントン合衆国大統領が細川内閣に対して、増税無き財政再建を望むとした時点の日本の財務状況は破綻寸前と言われたが、現在のそれはそうしたレベルすら遥かに超えた危機的状況にもかかわらず、こうした今の日本のぬるま湯のような加減は何だろう。

加えてこれからこのまま人口動態が推移した場合、日本は40年後に子供と65歳以上の言わば、労働人口以外の人口が全人口の85%を超える状況になり、これは現在でも50%ほどになっていることを考えると、あと10年後には年金制度は間違いなく崩壊するか、その支給額を減額し、年金負担額を増額しなければならなくなる。
これを安易に税金でまかなおうとすればどうなるか、当然ただでさえ減ってくる税収では負担しきれなくなり、増税に次ぐ増税、そして景気は後退の、ブラックスパイラルに陥っていくことだろう。

IMF(国際通貨基金)でも国際的金融機関でも、現在長期的に見てまず間違いなく破綻するだろう国家を挙げるとしたら、潜在的危機感は日本が一番大きいと言う意見が多い。
ムーディーズの記者会見は、こうした日本に対する不安感が、全く停滞している鳩山政権よって、より加速されてきたことを意味している。

本文は2010年に執筆されたものを再掲載しています。