「至福のチャーハン」

眠れぬ夜、たまに自分がこれまでに書いてきた記事を読み返しながら思うに、どうも「料理」の記事が余りにも少ないので、今夜は少し料理の話など書いてみようかと思うが、いかんせん自分が何とかまともに作れるものと言えば、「チャーハン」ぐらいしかなく、仕方ないので今夜は昭和の香りが漂う、なつかしのチャーハンの話などさせて頂く事にしようか・・・。
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妻が体が弱いこともあって、私は比較的料理を作る機会が多いのだが、その中でも緊急時にさっと作って間に合う「チャーハン」は、まことに重宝する料理と言える。
だがしかし、これほど家庭で作ってうまく行かない料理も珍しく、大体がご飯がペちゃペちゃになって、チャーハンと言うよりは「練りご飯の油漬け」、若しくは「油まぶしご飯」にしかならないのであって、これはチャーハンの素を使ってもうまく行かない。
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そこで私はむかし、ある料理の専門家にどうして家で作るチャーハンはうまく行かないかと尋ねた事があったが、彼女曰く、家庭で専門店と同じようなチャーハンを作るのは無理だと言われ、その理由は火力が少ないこと、またご飯を空気で撹拌(混ぜる事)する事が出来ない、つまりはあのご飯を空中に放り投げて油となじませる技が出来ないと、どうしても上手く出来ないと言う話だった。
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是非も無しである。
だが諦めの悪い私はそれから暫くして、今度はたまにしか行かなかったが、知り合いの中華料理店のオヤジに同じ事を聞いたことが有り、この時この店のオヤジは、「あんたはどうせたまにしか来ないから、教えても教えなくても、そう売り上げが変わらんだろうから、教えてやる」と言うことで専門家のチャーハンの作り方を教えてくれ、それによると、やはりポイントは「ご飯」だった。
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家で作る時はどうしてもこれから炒めるのだからと言うことで、温かいご飯を使ってしまうが、これがそもそもの間違いで、ご飯は冷たいものか一番良いのは冷たいご飯を有る程度ほぐしておいて、それを蓋をしないで冷蔵庫に入れておき、炒める寸前にもう一度バラバラになるようにほぐして使うと、あの綺麗な黄金の輝きになるとのことだった。
また中華らしい味付け、風味と言うことではタマネギを刻んで入れるよりはネギの香ばしさが良いだろうし、油もサラダ油ではなく、豚バラ肉の脂身を使うと、より中華らしさが出るのだとも教えてくれた。
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ではオールドパッション秘伝と言うより、自称中華の天才と言うオヤジ直伝のチャーハン作りの始まり、始まり・・・、(何故かとても恥ずかしい・・・)
卵4個、豚バラ肉300g、焼き豚100g、ネギ2本、ザーサイ1袋(味付けがしてないもの)、グリンピース缶詰1個、干しシイタケ4個、それに冷やしたご飯が3合、これが凡そ4人前の材料であり、おそらく1000円かからずに揃ってしまうだろうから、もしかしたら人件費を入れなければ、1人前200円以下で本格派のチャーハンが食べられるかも知れない。
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まずフライパンを十分熱する事、これはとても大事な事らしく、少し過ぎるかなと思うほどフライパンを熱し、その間に豚バラ肉の白身の部分、これが脂身なのだが、この部分を削り取って集め、みじん切りにしておく。
またこれより前には干しシイタケを水を付けて戻しておくが、これなども戻っていたら一緒にみじん切りにし、ザーサイもネギも、豚バラ肉の赤身の部分も、みじん切りにしておいて、まず豚バラ肉の白身を刻んだものをフライパンに入れ、これを十分にいきわたらせるようにする。
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この時豚バラ肉の脂身の量だが、大体大さじ一杯と言うところで、これがラードやサラダ油の役割をすることになり、約30秒ほどしたらここへネギを刻んだものを一つまみ入れ、そこへ豚肉の赤みを刻んだものを入れて炒めるが、この豚肉を入れる前後で、ネギを一つまみずづ2回入れるのは、豚油の匂い消しの効用があるからだと言う。
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またザーサイなども全部入れて炒めるが、この間、火力は常に強火で焦げそうになったらフライパンを持ち上げて調整し、豚肉に火が通る頃、凡そ30秒くらいか、そのくらい炒めたら今度はザーサイなどを入れて炒め、それが終わったら、ここへ1人前ドンブリ一杯ほどの、冷やしてほぐして置いたご飯を入れ、かき混ぜながら2分ほど炒める。
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そしてそれが終わったら今度は、ご飯をフライパンの片側に寄せて卵をその反対側に落とすと、これをご飯に良く混ぜながら炒め、最後に塩、小さじ半分を入れてコショウをぱらぱら振り、そこに「味の素」か、それで無ければチャーハンの素を小さじ4分の1ほどを入れてかき混ぜ、約1分ほど炒めると出来上がりである。
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更にここからはオプションだが、昭和の雰囲気を楽しむには、最後に入れる科学調味料を「味の素」にして、出来上がったらドンブリの底に焼き豚をマッチ棒の半分くらいに刻んだものと、グリンピースを置いて、そこへチャーハンを入れて金属ヘラで押し込んでいく。
2度ほどドンブリにチャーハンを押し込んだら、その上に皿を乗せて、今度はそれをひっくり返しドンブリを取ると、皿の上に綺麗な丸い形のチャーハンが出来上がり、そこに小さな国旗など飾ると、子供にも楽しい一品の仕上がりだ。
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こうして出来上がったチャーハン、してその味は、確かに食堂で出てくるチャーハンのあのサラサラしたご飯の感じと、そして何よりもプロの味がするのである。
さすが自称中華の天才だけのことはある。
中華のコツは炒めすぎないこと、そしてチャーハンの場合、油はサラダ油を使わないこと、豚の脂身はネギで匂いを消せば、ご飯とのマッチングが最高に良いものなのだと言うことである。
また卵は最後の方で入れないと、その風味が壊れてしまうものでもあるらしい。
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ちなみに私は来客があって夜7時ギリギリまで時間がかかったときは、こうして作ったチャーハンに味噌汁とサラダを付けて妻の枕元に運び、子供たちにもそれを食べさせたが、忙しくて自分の分を作ることが出来なかった。
そして妻が急に苦しがることや、子供が小さいときは夜中に熱を出す時があった事から、夜は皆が寝付く、12時か1時くらいまでは猫を見張り番にして仕事をしていたが、それが終わって妻や子供が残したチャーハンを集めて、冷たいチャーハンで酒を少しだけ飲むのが好きだった。
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猫にも少しだけ分けて、自分も割り箸でチャーハンをつまみに日本酒だったら1合、ウィスキーなら1杯を、ゆっくり飲んでいると、一日が終わった事を実感したものだったし、この方法だと食事と酒を飲むのが一挙に終わる事から、とても合理的だった。
そして「あー、今日もなんとかなった」と言う安堵感があったものだった。
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今では子供も大きくなり、長男は他府県で暮らすようになったし、妻の体調が崩れても、長女も手伝ってくれるようになったことから、むかしほどではなくなったが、それでも今でもチャーハンを作って残ると、夜、それを少しずつ箸でつまみ、それで酒を飲むのが好きだ。
だから私にとって至福の料理は、残って冷めてしまったチャーハンなのである。
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※ 本文は2010年6月26日、yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。